ノリタケ、TOTO。。。今も残る森村のブランド

今日のテーマは、明治のニューヨークで成功をおさめた日本人実業家・森村豊(もりむら・とよ)さんです。

森村豊さんのドキュメンタリーVTRでも触れましたが、彼は貿易によって日本を豊かにするというだけではなく、「日本の商売人の心」が世界で通用することを証明しました。
生まれは1854年。まだ江戸時代の末期です。少年期に明治維新を経験し、その後、若くしてアメリカへ渡りました。英語も満足に話せない中で必死に努力し、やがてビジネスの世界で成功を収め、ニューヨークの日系社会の中心となっていきます。


波乱万丈の人生と、森村ブラザーズの誕生

森村豊が築いた「森村ブラザーズ」は、のちにニューヨークの日系社会で最も影響力のある企業のひとつとなります。
彼は誠実で努力家、そして非常に几帳面な性格だったようで、ひとつひとつの仕事を丁寧に積み重ねていく姿勢が高く評価されました。
また当時(1880年代)は政府が日米貿易に力を入れていたので商社には政府から助成金が出ていましたが、モリムラ・ブラザーズはそうした政府の支援を断って「独立自営」を地で行っていました。その頃のニューヨーク日系社会をの記録は極めて少ないのですが、それでもモリムラ・ブラザーズは代表の森村豊を中心に誠心誠意商売に取り組んでいたという文書が残っています。
例えば羽二重の貿易で成功した堀越善重郎の自伝では、政府の助成金で商売をしている日本会社の怠惰を嘆き、地道に活動を続けるモリムラ・ブラザーズの姿勢を称賛しています。

従業員には厳しい面もあったようですが、それは“日本人の美徳”を体現する生き方でもありました。
豊さんが亡くなったのが1899年。その後日本は日露戦争で勝利をおさめ世界から注目されるようになり、ニューヨークにおける日本人の認知度も高まっていきました。豊さんの跡をつぎモリムラ・ブラザーズの代表となった村井保固は生糸貿易で成功した新井領一郎や三共製薬の創始者として知られる高峰譲吉とともに「ニューヨークの元老とひとり」とよばれました。もし46歳という若さで亡くならなければ、森村豊の名はさらに広く知られていたに違いありません。


「ノリタケ」の誕生と、兄が継いだ夢

意外に思うかもしれませんが、この森村豊こそ、あの「ノリタケ」の原点を築いた人物です。
彼が生前、夢見ていたのは“純白の陶磁器”を日本の手で作ることでした。
「モリムラ・ブラザーズ」の名のとおり、二人三脚で事業拡大を続けていた兄の森村市左衛門。1899年の豊の死後、1904年に「日本陶器会社」(のちのノリタケカンパニーリミテド)を創業します。

開発は困難を極め、純白の磁器が完成したのは10年後の1914年。
その挑戦を支えたのは、アメリカで森村ブラザーズが築いたビジネスの成功資金でした。
つまり、ノリタケの白い食器はニューヨークの森村ビジネスから生まれた“逆輸入の夢”でもあったのです。


ニューヨークで愛された「ノリタケ」

1910年代のニューヨークでは、「ノリタケ」といえば超高級食器の代名詞でした。
その繊細な白、上品な色合い、手に馴染む質感は、今なお世界中で愛されています。現在でもこの時期に作られたアール・デコ調の食器は「オールド・ノリタケ」として世界中の愛好家から尊敬を集めています。
日本の職人魂とアメリカのマーケットが結びついて生まれたノリタケは、単なる食器ブランドではなく、文化交流の象徴でもありました。

また「ノリタケ」の大成功により、日本を代表する実業家となった森村市左衛門率いる森村商事は様々なビジネスで成功を収めます。トイレの便器などで知られる「TOTO」も同じ森村グループから派生した企業です。
確かにTOTOの便器の頑強さはノリタケの食器製法とつながるものがあります。ちなみにTOTOの元の会社名は東洋陶器株式会社です。森村ブラザーズがなければ、今日のノリタケもTOTOも存在しなかったかもしれません。

他にも森村銀行を経営するなど戦前は日本を代表する財閥のひとつだったのです。


現代に受け継がれる精神

森村豊の生涯を詳しく知りたい方には、森村悦子さんによる著書『日米貿易を切り拓いた男 森村豊の知られざる半生』(2021年)がおすすめです。
最新のビジネス書としても読みやすく、彼の功績を現代の視点からわかりやすくまとめています。
膨大な資料と調査のうえで書かれたこの本は、忘れられかけた日本人実業家の足跡を現代に蘇らせてくれます。


おわりに

100年以上前のニューヨークで、日本人がここまでの成功を収めていた――
その事実は、私たちに大きな誇りと勇気を与えてくれます。

誠実に一生懸命にビジネスに取り組み、「アメリカンドリーム」を体現した男・森村豊の歩んだ道は、現代社会でも通じるものがあるのではないでしょうか。
彼の精神は今も、ノリタケの白い輝きの中に息づいているのです。


参考文献:
森村悦子『日米貿易を切り拓いた男 森村豊の知られざる半生』(2021年)

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